宮本佳明准教授が日本気象学会正野賞を受賞

宮本佳明准教授(慶應義塾大学環境情報学部)が2021年度日本気象学会正野賞を受賞しました。正野賞は、主に前5か年の気象集誌その他の学術雑誌に発表された論文を審査し、気象学または気象技術に関し優秀な研究をなした若手研究者に対して日本気象学会が顕彰するものです。

研究業績は下記の通りです。
「熱帯低気圧の強度変化過程の物理機構に関する数値的・理論的研究」

宮本准教授コメント

この度は栄えある賞をいただき、とても嬉しく思います。正野賞は、ノーベル物理学賞を受賞された真鍋さんの師匠である正野重方先生のお名前が入った賞で、これまでに学会内の優秀な先輩方が受賞されており、非常に光栄です。SFCで一緒に研究する学生さん、教員・研究員の皆様、そして教職員の皆様からサポートしていただいたおかげと思っています。今回の賞は、台風の強化メカニズム研究など気象学の基礎研究の成果が元で、あまり直接的にSFCの研究と関係しないかもしれないのですが、これを機に様々な形で発展できればと考えています。賞の名に恥じぬよう、今後も精進して参ります。

(宮本佳明環境情報学部准教授が日本気象学会 正野賞を受賞|慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC). (2021.10.12). https://www.sfc.keio.ac.jp/news/015818.html)より一部抜粋

選定理由

 台風は、海面から供給された水蒸気が、中心付近の対流性の雲(目の壁雲)で凝結することで駆動する渦である。このような対流と流れ場の間に働く相互作用を介した台風の発達機構は、半世紀以上前に提唱され(Ooyama1969)、これまでに多くの研究によって理解が深められてきた。しかし、強度変化に関わる各過程や、その後発見された現象・過程には、多くの未解明点が残る。また,台風に伴う暴風雨による災害の軽減のためにも精度の高い予報が求められ、地球温暖化による中長期的な台風の強度変化の量的な予測も必要である。そのためにも、台風の強度変化メカニズムの理解を深めることは重要である。
 宮本氏は、台風の強度変化に関して、理論と数値シミュレーションの両面から研究を行ってきた。台風研究の中で近年特に注目されている過程が、台風の急発達である。過去の研究から、統計的に強い台風は生涯に一度は急発達を経験すると分かっているが、急発達を予測することは難しい。宮本氏は、数値シミュレーションで計算された台風の構造を調べて、まず台風が軸対称化し、中心付近の慣性安定度が増加し、目の壁雲が形成して急発達が始まるというメカニズムを提案した[業績3]。また、更なる考察から、この傾向は急発達開始前の台風のロスビー数が大きいほど顕著であることも示した[業績8]。さらに、渦・環境場のパラメータを系統的に変化させたアンサンブル計算の結果、背景風・鉛直シアーがある環境場でも、上述のメカニズムが主に働くことを示した[業績11]。
 台風は環境場に応じた強度までしか成長できないという理論な限界強度(MPI)が提唱されており、実際の台風の上限強度を良く表すことが知られている。一方で、MPIまで発達しない場合も多い。宮本氏は、台風が海の表層をかき混ぜることで水温を下げる過程を定式化することに成功し、既存の理論に反映することで、海洋混合の影響を考慮したMPI理論式を構築した[業績10]。このMPIは、既存のものよりも実際の台風の上限強度を良く表すことが示された。
 台風の目の壁雲の外側にはしばしば、もう一つ壁雲が形成して多重になり、やがて既存の壁雲が消失する。このような壁雲の交換過程が出現すると強度・構造が急激に変化するため、急発達と同様に、予測を難しくする現象として注目されているが、未解明の点が多い。新たな壁雲の生成要因については、既に 10を超える理論が提案されているものの、統一的な理論は確立されていない。宮本氏は、過去の研究からこの現象が出現する最もシンプルな条件を考察し、1次元の境界層と自由大気の系で、自由大気の水平風速がある条件を満たした時に、エクマンパンピングを介した不安定現象が存在することを示した[業績12]。導出した安定性の指標を複数の計算結果より求めたところ、外側壁雲の形成前に不安定に対応する値に変化しており、構築した理論の妥当性を示すことに成功した。他にも、台風の強度を決める上で重要な海洋との関係などに関して、成果をあげてきた[業績1,2,5]。
 台風研究とは別に、宮本氏は全球非静力学モデル(NICAM)を用いて、「京」コンピュータ上で実施した全球を870mの格子間隔で覆う超高解像度大気シミュレーションの結果を解析した[業績4,6,9]。この結果、惑星スケールの大気の流れと積雲対流を同時に解くことに成功し、全球モデルにおいて積雲対流を解像するためには約2km程度の水平格子間隔が必要であることを示した。格子間隔870mは、8年たった現在でも全球大気シミュレーションの世界最高解像度であり、世界中の多くの研究に影響を与えている。
 さらに宮本氏は、流体の数値計算を行う際に考慮しなくてはならない空間解像度依存性の問題に対して、離散化した系で熱対流の安定性解析を行うという新しい解決法を提案した[業績7]。この結果、成長率が最大となる波数が解像度によって変化し、旧来の理論で得られる解(連続系の解)に比べて、格子間隔が増大すると共に波数が低くなるという解が得られ、数値計算結果と定量的に合う結果が示された。この他にも、熱対流へのエアロゾルの影響[業績13]や、下層雲のエネルギー平衡を基にした雲被覆率の理論モデルの構築
[業績 14]など、対流現象に関する成果もあげている。
 以上の宮本氏の熱帯低気圧強度変化過程の物理機構研究を中心とする多方面に及ぶ研究は、国内外の研究者に高く評価されている。以上の理由により、日本気象学会は宮本佳明氏に2021年度正野賞を贈呈するものである。

(日本気象学会事務局, & 日本気象学会事務局. (2021.12.8). 2021年度堀内賞、正野賞、山本賞、小倉奨励賞の受賞者決まる. 公益社団法人 日本気象学会. https://www.metsoc.jp/2021/09/27/26840)より一部抜粋

詳しくは以下のページをご覧ください。
宮本佳明環境情報学部准教授が日本気象学会 正野賞を受賞 | 慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)
2021年度堀内賞、正野賞、山本賞、小倉奨励賞の受賞者決まる | 公益社団法人 日本気象学会

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